大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)18号 判決

原告

竿常釣具製造株式会社

右代表者

田村義雄

右訴訟代理人弁理士

下坂スミ子

被告

特許庁長官

熊谷善二

右指定代理人

佐藤正

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一、原告は、片仮名で「エビスロツド」と左横書してなる商標(別紙参照)につき、商標法施行令第一条別表第二四類「おもちや、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品および附属品」を指定商品として、昭和四六年七月一〇日特許庁に商標登録の出願をしたが、昭和四八年一〇月二〇日拒絶査定を受けたので、同年一二月二八日審判の請求をしたところ(同庁昭和四八年審判第九五二四号事件)、特許庁は昭和五一年一一月一八日右審判請求は成り立たない旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その審決謄本は同年一二月一五日原告に送達された。

(審決の理由)

二、右審決は、その理由中において本願商標の構成及び指定商品を前項掲記のとおり認めたうえ、次のように要約される判断を示した。

本願商標の構成中、後半部の「ロツド」の文字は、「釣り竿」を意味する外来語として親しまれているばかりでなく、釣り具を取扱う業界においては、例えば「グラスロツド」、「スピニングロツド」、「トローリングロツド」のように、普通釣り竿を指称するものとして採択使用されている。そして、これがその前半部の「エビス」の文字と結合して一般に親しまれている熟語的な意味を形成し、一体不可分のものとして認識されるような特段の理由はないから、本願商標に接する取引者、需要者はその「ロツド」の文字により釣り竿であることを表示したにすぎないと容易に理解し、把握するものと判断するのが相当である。

したがつて、本願商標は、これをその指定商品中釣り竿以外の釣り具について使用するときは、取引者、需要者をしてその商品があたかも釣り竿であるかのように商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第四条第一項第一六号の規定に該当し、登録を受けることができない。〈以下省略〉

理由

一前掲請求の原因のうち、本願商標の構成、指定商品、出願から審決の成立に至る特許庁における手続及び審決の理由に関する事実はいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、審決の取消事由の有無につき判断する。

(一)  〈証拠〉によれば、本願商標の後半に含まれる「ロツド」という言葉は、近時釣り竿を意味する外来語として広く知られるようになり、釣り具業界あるいは釣り愛好家の間においても釣り竿を指称するのに使用され、例えば、釣りに関する雑誌、釣り具の広告などに「グラスロツド」、「スピニングロツド」、「トローリングロツド」などというように、他の単語と結合されて釣り竿の種類を表わす複合語の一部に用いられる場合も少なくない実情にあることが認められる。もつとも、〈証拠〉によると、「ロツド」の語は他に「棒」の意味にも使用されていることが、また、〈証拠〉によると、釣り竿は今日でも「釣り竿」または「竿」と指称される場合が多いことがそれぞれ認められるが、これらの事実があるからといつて、「ロツド」の語の釣り竿の意味における使用の事実が否定されるものではない。

そして、本願商標の前半に含まれる「エビス」という言葉もそれなりの意味を有するものであるが、その「エビス」の語と前記のような意味に用いられる「ロツド」の語とが本願商標の構成において結合されたことにより、それぞれ固有の意味を失い、新たな特殊の意味を有する熟語または全く無意味な言葉として一体不可分にしか認識されないような特別の理由を見出すことはできず、原告のこれと相容れない主張は失当である。

したがつて、本願商標をその指定商品中釣り竿以外の釣り具に使用するときは、これに接する取引者、需要者をして、その構成に含まれる「ロツド」の文字が「釣り竿」を表示しているものと認識し、これがため、その商品を釣り竿であるかのように商品の品質につき誤認を生じさせるおそれがあると認めざるをえない。

してみると、本願商標を商標法第四条第一項第一六号の規定に該当し、登録適格に欠けるとした審決の判断に誤りはない。

(二)  次に、本願に対する拒絶査定の理由が本願商標を指定商品中「釣り竿以外の商品」に使用されるときはその商品の品質につき誤認を生じさせるおそれがあるというにあつたことは当事者間に争いがないところ、前示一の審決の理由によると、審決が肯定した拒絶理由は、本願商標が使用されるときは一定の商品の品質につき誤認を生じさせるおそれがあるという点において査定の理由と一致し、その商品の範囲を指定商品中「釣り竿以外の釣り具」に限定して査定の理由における商品の範囲により減縮しているから、およそ、拒絶査定の理由を出るものではない。のみならず、査定に先立ちあらかじめ出願人たる原告に対しその拒絶理由が通知され、意見書提出の機会が与えられたことは本件口頭弁論の全趣旨に徴して明らかである以上、審決が肯定した拒絶理由は、これについて原告に対する通知と意見書提出の機会付与を缺くものといえないから、実質的にみても、原告主張のように特許法第一五九条第二項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に該当すると解すべき理由は全くない。原告は、査定と審決とでは品質誤認のおそれがあるとする商品の範囲に格段の相違があることを右解釈の実質的根拠として主張するが、採用するに足りない。

してみると、審決の手続上原告主張の違法があるということはできない。

三よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(駒田駿太郎 橋本攻 永井紀昭)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例